三味線の歴史は古く、現在の形状に至るまでには、職人や奏者による様々な創意工夫が重ねられてきました。
より良い音色に、より使い易く、より美しく。
一般的に良く知られている例としては、東ザワリやキンボソが上げられると思います。
今回は、一般的にはあまり知られていない例、「変わり天神」を御紹介します。
「変わり天神」とは、通常の物とは異なる形状をした天神を総称して指します。乳袋の脇がえぐれている物や月形の格好が独特な物等ありますが、今回御紹介する物は糸蔵の形が変わっている天神です。
左が一般的な天神、右が変わり天神です。
一般的な天神に比べて、変わり天神は糸ぐらの位置が上に上がっています。 これには、次のような利点があります。
●糸が上駒にかかる角度が鈍角になる。→糸が切れにくくなる。
一般的な天神変わり天神糸が上駒を支点として切れてしまうことを高切れといい、特に3の糸で起こります。これは、糸が強く張られて弾かれる事で、上駒に力がかかる為です。この角度を広くすることによって、上駒にかかる力を減らし高切れの危険性を減らします。
●1の糸が2の糸巻きに当たらなくなる。→1の糸の振動が阻害されなくなる。
一般的な天神変わり天神1の糸が2の糸巻きに当たると、弾かれた時の振動が邪魔されて音色が悪くなる、 という説があります。
その予防策として、糸巻きの位置を上げて1の糸を2の糸巻きから離し、1の糸に本来の音色を出させます。
この天神は、世に多く出回ったことはありません。
理由はこの天神が駄作だ、というわけではありません。機械では出来ない為、目にできる機会が少ない事などが原因だと思います。
そもそも糸ぐらの角度を変えるだけなら、天神の反りを甘くするだけでいいのです。しかしそれでは天神の、ひいては三味線の美しい形が損なわれます。
三味線の持つ美しい形と機能を追求し、生まれたのがこの変わり天神です。
作る機会が少なくても、私はこの技術を高め、守り、次の時代にも伝えて生きたいと思います。